平成 29 年度介護報酬改定に関する審議報告
介護人材については、更なる処遇改善に引き続き取り組むべく、まずは競合する他産業との賃金差を解消するとの観点から、本年8月2日に閣議決定された「未来への投資を実現する経済対策」において、「介護保険制度の下で、介護人材の処遇については、キャリアアップの仕組みを構築し、月額平均1万円相当の改善を平成 29 年度から実施する。」とされ、政府において、平成29 年度に臨時に介護報酬改定を行うことにより対応することが決定された。
当分科会は、この決定を受けて、その制度設計等について議論を行ってきたが、これまでの議論に基づき、平成 29 年度介護報酬改定に関する基本的な考え方を以下のとおり取りまとめたので報告する。
1.介護人材の処遇改善
○ 介護人材の処遇を含む労働条件については、本来、労使間において自律的に決定すべきものであるが、他方、介護人材の安定的確保及び資質の向上を図るためには、介護業務の負担の軽減や事務の効率化を図る他、事業者における取組を評価し、確実に処遇改善を担保するために必要な対応を講ずることは、現状においても引き続き求められている。
○ このため、平成 29 年度介護報酬改定では、現行の介護職員処遇改善加算の位置づけを前提として、これを維持しつつ、介護人材の職場定着の必要性、介護福祉士に期待される役割の増大、介護サービス事業者による昇給や評価を含む賃金制度の整備・運用状況などを踏まえ、事業者による、昇給と結びついた形でのキャリアアップの仕組みの構築について、手厚く評価を行うための区分を新設することが適当である。なお、介護人材の処遇改善について、その必要性は認めつつも、介護報酬改定が予定されていない期中については税財源で対応すべきであり、保険料負担が純増となる形で期中の報酬改定により対応を行うことは厳に慎むべきであるとの強い意見があった。
○ 新設する区分の具体的な内容については、現行の介護職員処遇改善加算(Ⅰ)の算定に必要な要件に加えて、新たに、「経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること(就業規則等の明確な書面での整備・全ての介護職員への周知を含む)」とのキャリアパス要件を設け、これらを全て満たすことを要することとすることが適当である。
(※)新設するキャリアパス要件に関する取組の例
●「経験に応じて昇給する仕組み」…「勤続年数」、「経験年数」などに応じて昇給する仕組みを想定。
●「資格等に応じて昇給する仕組み」…「介護福祉士」、「実務者研修修了者」などの取得に応じて昇給する仕組みを想定。ただし、介護福祉士資格を有して当該事業所や法人で就業する者についても昇給が図られる仕組みであることを要する。
●「一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み」…「実技試験」、「人事評価」などの結果に基づき昇給する仕組みを想定。ただし、客観的な評価基準や昇給条件が明文化されていることを要する。
○ なお、介護職員処遇改善加算について、常勤・月給の職員に比べ、非常勤・時給の職員において処遇改善効果が低いこと等に鑑み、その点への対策も必要ではないかとの意見や、キャリアパス要件を含め、その実効性を確保することが必要であるとの意見があった。
○ また、介護職員処遇改善加算の対象職員や対象費用の範囲を拡大する場合には、加算の算定額が必ずしも全て介護人材の賃金改善に充てられないこととなる。この点に関して、対象職員の拡大については、介護事業所で働く様々な職種の職員のチームワークの向上に資するとの意見があった一方で、介護職員のみに限定した処遇改善を実現すべきとの意見もあり、対象費用の拡大については、介護職員の職場定着を図るため、賃金改善以外の、仕事と子育ての両立支援や教育・研修・職場環境の改善へ活用できることとすることが必要であるとの意見があった一方で、現在でも必ずしも賃金改善に直接結びついていない面があるとの指摘がある中、さらに賃金改善の効果が弱まりかねないとの意見もあったことから、慎重な対応が必要である。
○ このため、平成 29 年度介護報酬改定においては、介護人材の確保は重要な課題であり、その処遇改善を図るために臨時に介護報酬改定を実施する趣旨に鑑み、まずは、新たに措置する月額平均1万円相当の処遇改善が、介護人材の賃金改善に確実に結びつくことが重要であるとの考えから、介護職員処遇改善加算の対象職員や対象費用の範囲については現行の取扱いを維持することが適当である。
○ 一方、対象職員や対象費用の範囲を含め、介護職員処遇改善加算の在り方については、介護人材の状況、平成 29 年度介護報酬改定で措置する月額平均1万円相当の処遇改善の実施状況、介護人材と他職種・他産業との賃金の比較や例外的かつ経過的な取扱いとの位置付けなどを踏まえつつ、引き続き検討していくことが適当である。なお、この点については、更なる処遇改善を引き続き検討すべきとの意見や、恒久的な在り方も視野に入れて検討すべきとの意見があった一方、処遇改善を介護報酬により対応すべきかどうかという観点も含めて検討すべきとの意見があった。