平成29年処遇改善加算でなぜ「キャリアパス要件Ⅲ」が新設されたのか?

平成21年に導入された処遇改善加算の前身となる「処遇改善交付金」から、公費による介護職員の処遇改善加算は拡充されてきました。

 

平成27年介護報酬前の課題意識
平成27年に加算拡充が行われる以前のキャリアパス要件は、「職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること」(=現在のキャリアパス要件Ⅰ)と「資質向上のための計画を策定して研修の実施または研修の機会を確保すること」(=現在のキャリアパス要件Ⅱ)のいずれかを満たせばよく、あとは定量的要件(=現在の職場環境等要件に相当)を満たせば、当時の最高位の加算を受けることができました。

そもそも、処遇改善加算を受ける条件として、キャリアパス要件Ⅰの内容が求められたのは、介護職員の離職理由として上位にでる「将来の見込みが立たない」といった不安に対して介護事業所が明確なキャリアパスを示し、職員が将来の展望をもって働けるようにする狙いがありました。

しかし、実際には大半の事業所がキャリアパス要件Ⅰではなく、キャリアパス要件Ⅱで処遇改善の計画を届け出る結果となりました。

どの事業所でも、何らかの形で職員の教育を行っており、キャリアパス要件Ⅱについては小規模な事業所であっても、比較的無理なく対応することができたのです。

平成27年介護報酬改定
しかし、賃金アップ効果はあったものの、この加算の算定方式では人材の確保につながらないと判断され、平成27年の介護報酬改定で、キャリアパス要件Ⅰ及びⅡの両方を満たすことを求めた旧加算Ⅰ(=現在の加算Ⅱ)が設けられることになりました。

この改定で、旧加算Ⅰの算定要件となったキャリアパスと資質向上の仕組みづくりは進んだのですが、キャリアパス要件Ⅰの「賃金体系」があいまいだったため、一時金で加算額を分配するなどの対応をとる事業所が多くみられました。

平成29年介護報酬改定
そこで、平成29年の介護報酬改定では、このような状況を是正すべく、「経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること」というキャリアパス要件Ⅲが、さらなる上位加算として組み込まれたのです。

 

介護人材の資質向上、定着促進を目指すためには、「昇給の仕組み」が不可欠と判断されたのです。

 

このように、介護職員処遇改善加算は、介護現場で働く介護職員が、その事業所、施設で働き甲斐と安心感をもって長く働ける環境をつくるために、政策誘導され進化してきていることがわかります。